土曜日, 3月 31, 2018

P・D・ジェイムズ著「策謀と欲望 下」、ホイスッラー連続殺人鬼はあっさりと自害した。連続殺人鬼を追走する物語だと思ったが、作者はバッサリとなんの未練もなく断ち切った。その潔さに感心する。思えば、原子力発電所の小さな田舎町の近隣住民の悲喜こもごも嫉妬や妬みは元より噂、そして暴力と人間が暮らす世界の通常の普通の生活の機微を描きながら中心に据えたテーマは人間の欲望であった。
P・D・ジェイムズ著「策謀と欲望 上」、海沿いの田舎、原子力発電所のある小さな村で次々と起こる連続殺人事件ホイスッラーと呼ばれる犯人の仕業と目され、殺人は惨く惨忍だ。地元警察の刑事が捜査を開始するが、犯人の行方は庸と知れずそんな中発電所の職員がまたもや殺害された。しかし殺害前に目されていたホイスッラーは自害したとされた。事件は迷宮化しつつあった。
米澤穂信著「いまさら翼といわれても」、架空の田舎町、神山町の高校生の青春の会話が主題だ。懐かしい思いが蘇る。徐々に個性を際立たせて大人になる一歩手前の行動と考えを懐かしさと共に思い出し一気に読んでしまう不思議な魅力を持った書だった。
宮部みゆき著「蒲生邸事件」、戦前の2・26事件を題材に、タイムトリップという突飛な発想設定で物語が進んでいく。蒲生憲之という旧陸軍大将・皇道派である家・蒲生邸にタイムトリップした孝史そこでこの蒲生邸の秘密を探り、合わせて事件の渦中に遭遇し現場を具に見ることになる。軍部独裁へと舵を切る日本の現状と必死に生きる庶民の姿は小説らしく、後半部分は既にタイムトリップのことなど忘れてしまう。そんな面白い小説だった。
ジョン・ディクスン・カー著「火刑法廷」、素晴らしい作品だ。プロットもそして謎解きもそこに登場させる人物の配置も見事だ。フィラデルフィアの郊外クリスペンの田舎町の広大な土地を有するデスパレード家そこの当主がヒ素の毒をもられ死亡する。近くに別荘を持つスティーヴンスとデスパレード家の長男マークらとともに霊廟から死体を取り出し毒を盛られた事を実証すべく掘り返した。だが死体は無かった。死体の消失、不倫、魔術めいた家系、犯罪を研究する小説家と伏線にも事欠かない。まさにミステリーの一級品だ。
東野圭吾著「秘密」、杉田平介の平凡な家庭、妻と娘藻奈美との3人でのどこにでむある家庭だ。ある日長野に娘と出掛けた妻直子はバスの事故により娘の藻奈美だけ助かったという事態が発生。そしてミステリーが始まる。娘藻奈美の体に妻直子が宿るという不可思議な状況になった。平介と藻奈美の体をした直子との生活が始まる。娘、妻への愛情と父親としての人間としての嫉妬と苦悩を見事に描いている。ミステリーというより文学的作品だ。
筒井康隆著「ロートレック荘事件」、豪邸とも言われる別荘その建物はロートレック荘というものだった。別荘の所有者木内がロートレック作品の蒐集家で邸内には幾つもの作品が飾られていた。そんな別荘に集まった7人にある日拳銃による殺人事件が発生した。次々と計3人の女性が殺害された。屋敷のカラクリと犯人の鬱屈した精神をプロットとして採用しているが、謎解きは今一だ。
ミシェル・ビュッシ著「彼女のいない飛行機」、イスタンブール空港を飛び立ったエアバスが、フランスとスイス国境の恐山と称される山中に激突した。乗員乗客169名のうち1名の乳児が助かったと地元新聞が報じ話題となった。乗客の中に乳児が二人いて助かったのはどちらの家族の子供かと争いが起きそして一人の探偵が裕福な家族に捜査を依頼されてから18年の歳月が経過した。そして探偵に依頼した契約最後の日に事態は急展開し謎がとける言ったプロットだ。一人の乳児を回り対立する家族そして捜査を依頼された探偵、一方に家族の青年もまた捜査を開始する。様々な状況の中で物語は進む。冗長さは否めないが最後まで繰らせる迫力がある。
東野圭吾著「疾風のロンド」、泰鵬大学医科学研究所から盗まれた炭疽菌カプセル以前研究所に勤務していた男の犯行だと分った。彼は長野県の里沢温泉村スキー場に埋めたといって脅迫してきていた。その後犯行に及んだ男は関越道でトラックに轢かれて死亡、研究員の栗林と秀人はスキー場に向かう。ゲレンデを挟んでの攻防はスリルがあり単純だが著者のプロットは的を得た作りといえる。
黒川博行著「蜘蛛の糸」、7編の短編集だ。著者の短編集は確か初めてだと思う。どれも皆面白い。軽妙な文章のタッチは気軽に読めて何故かホットするものがある。大阪弁でのやり取りも何故か違和感もなくすんなりと受け入れることができる。それぞれの背景の著者の蘊蓄は調査の確かさを認識する。