日曜日, 2月 25, 2018

黒川博行著「暗闇のセレナーデ」、著者の初期の作品だ。美術界取り分け彫刻界の組織である立彫会の副理事長の加川昌の失踪とその妻の自殺未遂から端を発した事件の真相を美大の女子の二人美和と冴子そして西宮北署の刑事が追う。彫刻界、美術界の裏で動く闇を鋭く描きまた当時の美大生の生活もリアルに描写している。著者が美大出という事情も相まって鋭い。事件捜査は一転二転と犯人は用として特定できず巧妙な計画的な犯行をメインにプロットは読者を十分堪能させる小説だ。
ジェフリー・ディーヴァー著「スティール・キス」、著者のリンカーン・ライムシリーズだ。このシリーズは全て読んでいる。今回は生活の身近にある電子機器あるいは電気器具が凶器に変貌するといった恐怖を犯人未詳40号の手に罹り連続殺人事件を追うライムとアメリアの闘いだ。機器に内蔵された電子デバイスICチップの制御コントローラーをハッキングして意のままに操る犯人を追跡する。ライムのタウンハウスにはいつものメンバーであるクーパーのほかに今回初登場のアーチャーが参戦彼女もまた障害者で車いすを使う。後半の著者のどんでん返しは未詳40号の裏に女性が絡むというプロットだが、今回の作品に関しては今一かな。と思う。
太田愛著「天井の葦 下」、失踪した公安捜査官山波を追って曳舟島に到着した鑓水、相馬、修司ら3人は地元の漁師達の中に入り幸運にも果って絶命した正光の同僚喜重の好意で民家を借り住まうことになった。島を調査するうち山波が隠れている確信を掴む。そんな折公安の調査官が島に乗り込み間一髪のところで漁師に助けられ島を脱出し東京へ向かうことができた。立住の児童ポルノDVD携帯により逮捕され一刻の猶予まない4人は計画を実行する。後半の展開は迫力がある。検察と第二次大戦下での言論統制、秘密保護法による無差別の捕縛と警察庁公安との闘いをテーマにしたプロットは著者の力量の大きさを見る思いだ。
太田愛著「天井の葦 上」、3作目を読むことになった。天井の葦という長編だ。正光という老人が渋谷のスクランブル交差点で天空を指さしながら絶命した。元議員からの依頼で鑓水七雄の興信所に依頼があった。その不遇の死の調査依頼だ。鑓水の興信所で働く繁藤修司とともに調査を開始した。一方二人の盟友相馬亮介は交通課に飛ばされ、現在停職中の身だ。その相馬に公安からやり手前島より鑓水らの委任先を掴めと指示を受諾。警察、公安、政界と鑓水らの興信所を巻き込んだ事件の今後の展開は?


マイクル・コナリー著「転落の街 下」、市議の息子のホテルからの転落事件は、早々と自殺と断定され決着し、ハリーは未解決殺人事件の捜査に戻る。執拗な捜索の結果犯人を突き止めた37人もの被害者を出した稀に見る殺人犯を逮捕した。上巻では市議とロス市警が絡む事件を取り上げ下巻では未解決、凍結事件を絡ませるコナリーのプロットは見事に成果を出している。
太田愛著「幻夏」、作者の初作「犯罪者」にも登場する3人、警察官の相馬、元TVプロデューサーの鑓水、そして繁藤修司と。少女誘拐事件を契機に相馬の親友水沢尚の失踪を絡ませ事件は複雑な経緯を辿る。尚の父親が冤罪として9年間の刑務所暮らしから帰還しよりによって自らの息子に石段坂で石礫により殺害される。その後尚の母親香苗が鑓水に尚の捜索を依頼しに来て3人の尚の捜索が開始された。著者の巧みなプロットを冤罪をテーマに警察、検察、裁判官と日本の司法機構の矛盾を指摘する。社会派ミステリーを堪能できる一冊だ。


マイクル・コナリー著「転落の街 上」、ロス市内のホテルの上層階から落下し死亡したハービング弁護士事件を回り、ロス市警のハリー・ボッシュ刑事が捜査を開始する。死亡した彼の父親はロス市議会議員だ。倅が父親のコネクションを使い仕事をして来ていたと分る。ハリウッド地区のタクシー営業許可を回り父子は動いていた。息子は元警官でハリウッド分署同僚警官を抱き込み利権を奪おうとしていた。
太田愛著「犯罪者 下」、三人のメルトフェイス症候群の元凶タイタスフーズは、滝川というプロの殺し屋を雇い彼らを追わせる。周到なる計画を実行すべき三人の前に次々と浮かび上がる真実、大企業と政界との癒着、企業内の対立の構図からマスコミを仲介にして巨悪を暴き全国者連絡会に金を渡そうと脅迫する鬼気せまる後半の展開はまさに読み応え十分なミステリーだ。  
太田愛著「犯罪者 上」、白昼の深大寺駅前で拳銃による射殺事件が起こった。殺害された4人と負傷した繁藤修司、警視庁の相馬啓二、前ディレクターの鑓水彼ら3人の犯罪捜査が開始される。事件に深く関係した産廃業者の真崎、彼は幼児のメルトフェイス症候群なる悲惨な状況を作り出す元凶をタイタスフーズなる食品会社の離乳食にあることを突き止める。3人の前に目出し帽の刺客が送り込まれすんでのところで命拾いした修司を助け出す。複雑なプロットだが軽妙な文体とともにリアルに展開する物語だ。
ルシアン・ネイハイム著「シャドー81」、前代未聞の旅客機のハイジャックを扱った作品だ。時期はベトナム戦争末期だ。中古船を買いエンコ空将とグラントは戦闘爆撃機TX75Eを巧みに盗み出し船に積み込みハイジャクを計画する。旅客機の機長や機内の様子、管制官とのやり取りなどまさにリアルで感動する。プロットの完璧さに加えて描写のリアリティーは迫真の描写だ。
山本一力著「赤絵の桜」、短編5編の本書は、江戸中期のレンタル業損料屋喜八郎とその配下が江戸は深川を舞台に活躍する物語だ。喜八郎に男の粋を乗せ下町人情を前面にさらに恋愛について作者の深い思いを乗せ描いている。日本人の感性に訴える秀作だ。
マイクル・コナリー著「罪責の神々 下」、ロス市警麻薬捜査官マルコ、彼の取り巻き調査官らによるハラー弁護士の運転手アールの殺害、さらにハラー自身が高速道路での追突と危機と隣り合わせで弁護する展開だ。本書下巻は法廷での詳細な記録としたたかな弁護を展開するハラー、チームハラーの見事な調査そして事件は意外な結末へと向かい予想だにしない結果となっていく。どこまでも正義を貫き通し弁護を続けるハラー弁護士、著者の秀作だ。
マイクル・コナリー著「罪責の神々 上」、売春のポン引きがエスコート嬢殺害事件で逮捕されその弁護を引き受けることとなった主人公ハラー弁護士、比較的安易な事案として受けた弁護だったが、事態は予想を超え複雑で無数の糸が絡まる状況となった。ロス市警捜査官、メキシコ麻薬カルテルの収監人モイア、モイアの弁護するスライと事件は一つに纏まりつつあった。
内藤了著「ゴールデン・ブラッド」、ゴールデン・ブラッドと呼称される人口血液をテーマに殺人ミステリーが絡む物語だ。ミステリーあり愛、人類のための博愛と最後には「どんでん返し」ありと巧みなプロットには脱帽だ。人間は何のために、どのようにして生きていくのか?という人生の大きなテーマを主題に組み立てられさらにミステリーを絡ませるという面白さは格別だ。
柚月裕子著「孤狼の血」、広島県警呉原署を回り暴力団との格闘をリアルに描いた警察小説だ。ベテラン刑事大上と新人刑事日岡コンビが繰り広げる壮絶な対暴力団との闘いが大上刑事の人間模様とともに展開するプロットは迫力と著者の綿密な調査とが相まって見事に描かれている。