水曜日, 11月 08, 2017

アイラ・レヴィン著「死の接吻」、戦後アメリカミステリー界に燦然と登場した20歳代の稀有な新人作家が書いた「死の接吻」は衝撃を持って迎えられた作品でエドガーズ賞に輝いたと。今読んでもなんら古めかしさは無く新鮮だ。主人公の大学生バッドが恋人の妊娠を切っ掛けに殺人を犯してから始まるミステリーはこの小説以来何度もテーマに昇り多数の作家が書きあげている。打算的な青年の殺人、最後は自分自身を死に追いやる運命を作者はその心理状況からも見事に描写している。
鷹羽十九哉著「私が写楽だ」、著者の本は初めてだ。十返舎一九と江戸小娘頭脳明晰にして美人おりきが織りなす、数多怪事件を解決する痛快ミステリーだ。北斎やら多数の江戸の有名人を登場させ物語の面白さを増長させるその描写は著者ならではで、またプロットも各編ごとに素晴らしい。



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黒川博行著「繚乱」、大阪府警を退職した元デカ2人、伊達と堀内が競売屋に職を置きパチンコ店の物件に関わる調査を開始、その過程で殺人恐喝などヤクザが絡む複雑な糸を解して行くといった物語だ。ヤクザ、銀行関係者、元府警OB、新地のホステスとこれでもかという裏を抉り出す痛快なミステリーだ。元デカ伊達と堀内は何故か憎めない人間に描く著者の描写に感嘆。
エラリー・クイーン著「エジプト十字架の謎」、ある村の交差点で首なし磔死体が発見される。その死体はまさに大文字の「T」型をしており謎の殺人事件として登場しクイーンの興味を引くこととなる。捜査に従事したクイーンの元でさらなる連続首なし殺人事件が発生する。少し冗長性は否めないが卓越した推理プロットは古典的名著と呼ばれる著者の代表作だ。
松本清張著「黒川の手帳 下」、予備校のトップとの駆け引きを成功し料亭「梅村」の土地を手に入れたと思い銀座の大きな店を買い取る決意をした元子だったが、突然梅村の土地を手に入れることができなくなった。元子は窮地に立たされた。そして銀座の裏の世界の元に対する逆襲が練られ元子を潰しに罹ったのだ。著者の当時の銀座のバーを巡り蠢く闇のの世界を抉り、一人の女性の野望を描いた社会派然とした作品だった。
黒川博行著「てとろどときしん」、著者の初期の傑作短編集だ。どれも秀作で、読者を飽きさせない著者独特な簡潔にして迫力ある文章は軽快だ。すでにこの当時警察ミステリーの芽生えががあり、刑事のコンビの大阪弁を介しての絶妙ともいえる遣り取りはまさに大阪漫才をルーツに展開したものとみえる。
黒川博行著「疫病神」、「破門」に至る第一作目の作品である。二蝶会のイケイケのヤクザ桑原とフリーの自営業の二宮のコンビ第一作目だ。事は産業廃棄物場建設に伴うゴタゴタに巻き込まれる二人、ゼネコン、ヤクザの組対立するまた組とプレーヤーが続々と顔を揃えシノギを巡る攻防は熾烈だ。そんな物語の中でも桑原と二宮のそこはかとない人間の暖かさを上手く描写する作者の技量には感服。そして軽快で面白い。
松本清張著「黒川の手帳 上」、東京の銀行員の原口元子は、勤務先の銀行から大金をせしめて退社し銀座のママになった。所詮素人の水商売の経営では早晩息詰まる。次のターゲットが産婦人科医院長だ。産婦人科医院に勤務する院長の手のついた婦長から脱税の内容を聞き出し架空口座名義のリストを種に強請る。この手口で5千万円をせしめた。次のターゲットは医科大学専門の予備校のトップだ。
村上春樹著「騎士団長殺し 第2部」、ますます第二部になって物語は、観念イデアの世界に突入して行く。現実と非現実の境界があやふやになり条理と不条理がない交ぜになって混沌した世界の中で生を見出してゆく。自身の存在は不確かな不確実な世界を彷徨い苦悩する。人の人生とはそういったものかもしれない。存在を確かめる何かを求めて生きる人生とはそうなのだろうか?
今野敏著「欠落」、本書は警察小説である。警察小説といえば、黒川博行である。今回釧路空港で買い求めた書だ。誘拐事件が発生し人質交換要員として新人のSITの大石が出向く。さらに管内での殺人事件が発生本部が設置され地道な捜査が開始される。だが永として被害者の情報が引き出せない。そこに沖縄那覇での殺人事件さらに三鷹署内での殺人事件と連鎖情報が加わり、事件の様相が一変する。公安を管轄する警察庁からの警視正の捜査本部への派遣と事件は公安がらみと発展し宇田川巡査部長は通常の殺人事件でないと悟る。幕切れはあっけないが、通常の警察業務を管轄する捜査官らと公安との駆け引きを題材に物語が急展開してゆく。
黒川博行著「迅雷」、奇抜なプロットだ。ヤクザの組長を拉致誘拐するといったゴロツキ3人そして誘拐された組組織との果てしない攻防、騙しあい内容はシリアスだが、まるでユーモア小説を読んでいるようだ。作者の卓越した文体と表現の描写は読むものを最後のページまで繰らせる力を強く感じる。ほんとうに面白い。
高田郁著「あきない世傳金と銀 四」、5代目徳兵衛の突然の引退・隠居宣言により幸の運命は大きく変化することになる。惣二の書付により弟智蔵を六代目徳兵衛にとにより晴れて店主が決定し、徳兵衛こと智蔵は条件として幸を後添えとして希望し幸も承服することから如何せん商売に向いてない智蔵に代わり幸の五十鈴屋経営の手腕が次々と発揮されてゆく。
村上春樹著「騎士団長殺し 第1部」、著者の作品は大分よんでは来ている。今回の騎士団長殺しも例外なく素晴らしい作品に仕上がっている。36歳の画家として肖像画を描いて生活している青年の周りで、感情と理性、条理と不条理の狭間そして己の存在を確かめるような事柄が脈絡なく続く。希望や憧憬からか定かではないが騎士団長というメルヘンチックな妖精とでもいってもいいが現れる。彼を取り巻く様々な理解しながらできなに何か?に取り囲まれてゆくその過程は読み手の精神を高揚させ不連続な世界を彷徨する。
黒川博行著「燻り」、短編集だ。著者独特なプロットとそして軽妙なタッチで畳みかける迫力はまさに黒川作品そのものだ。現実味のある事件とその裏にある人間の欲望や羨望そして人生の悲哀すべての要素を描き出している著者の核心がここにある。
畠山健二著「本所おけら長屋 九、相変わらずおけら長屋の面々、松造、万吉、鉄斎、お染を交えた人情溢れる江戸っ子の出しゃばりが騒動を起こし無事涙を伴って解決するといった筋書きだ。日本人の心の片隅に住まう人情を擽る類まれなプロットは尽きることを知らない。