月曜日, 10月 02, 2017

黒川博行著「絵が殺した」、画家、画商、画廊、美術ジャーナリストといった美術界を巡る殺人事件だ。大阪府警捜査一課、吉永、小沢刑事コンビが犯人を執拗に追う。一見関連がなさそうな殺人事件が発生。捜査を進めるうちに関連が見えてくる。作者のプロットは実に巧みだ。大阪弁の気取らない表現といい、軽快な文章といいすっかり著者のフアンになってしまった。

東野圭吾著「卒業」、6人の卒業を馬路かに控えた大学生の間に起こる殺人事件、青春ミステリーだ。ある日女子学生祥子がアパートで死体となって発見された。自殺他殺両面から警察の捜査が始まったがその動機は掴めなかった。同じ仲間の女子学生波香が茶会の席で服毒による死を迎え緊張しながらも必死に原因を探ろうとする加賀と佐都子。。プロットしては面白みがなく描写も冗長さがあるが、著者ならではの物理学的トリックや青春の群像を描き人間性も描写している。
坂口安吾著「不連続殺人事件」、昭和20年代を舞台にした著者初のミステリーだという。田舎の旧家豪邸に招待された面々の間で起こる連続殺人事件、招待者の中に巨勢博士という探偵好きな人物がその殺人事件を解明するといった。人間の描写やプロットからすると今現在でも十分通用する古典的名著じゃないかと。
貴志祐介著「鍵のかかった部屋」、四篇の短編集だ。榎本径と美人弁護士青砥順子の二人で密室殺人の謎を解明するといったミステリーだ。トリックは意表を突くものが多く榎本の物理学を応用した解明はほーと何故か納得してしまう。気軽に電車の中で読むのに最適な一冊だ。


ジョセフィン・テイ著「時の娘」、病院へ入院中のスコトランドヤードの刑事グラントは退屈紛れに歴史の本でも読もうかと。英国史それも15世紀末のリチャード三世の時代の彼が幼い甥二人の殺害をしたという真実を確かめるべく歴史書を読むことに、グラントの友人から紹介されたアメリカ生まれの青年キャラダインと意気投合しリチャード三世の歴史的殺害事件の真実に迫る。
黒川博行著「二度のお別れ」、大阪市内に銀行強盗事件が発生する。黒さんマメさん黒マメ両刑事のコンビを初め府警捜査が捜査に当たる。犯人からの脅迫状は元より電話で翻弄される刑事と犯人の遣り取りは、軽快な文章と共にスピード感を伴って最終章へと。しかし事件は迷宮入りとなって3年が経過した。ある日黒さんの自宅に犯人から電話が。。。
黒川博行著「封印」、元プロボクサー酒井が世話になっているパチンコ代理業津村が、誘拐された。大阪と京都のヤクザの果し合い、そこに警察官が絡み合う。酒井は一人津村を探してヤクザと渡り合う。軽妙なタッチの著者の文章は一気に週末へ。プロットといい文章といい当に著者の独壇場だ。
道尾秀介著「鬼の跫音」、オカルト的でありミステリアスな趣があり多様なイメージを抱かせる短編集だ。各短編は独立してはいるが、底辺にある人間の懐疑や本性を際立たせる巧妙なトリックとプロットが光る。何気ない日常に潜む人間の本性は底知れぬ恐ろしさ恐怖を感じさせてくれる類をみない小説だ。
黒川博行著「カウント・プラン」、著者の初期の短編集である。現代社会の歪と発生すると思われる事件を捜査側と犯人側と二手に分けて記述してゆく。著者ならではの大阪での警察捜査側の刑事と犯人のやり取りは従前のもので、後の大作にも繋がる兆しが見える。


綾辻行人著「時計館の殺人 下」、殺害は連続的に発生し恐怖に戸惑う時計館の滞在者達。時計館という幻想のフィクションの建築物ではあるが、この小説を読み進めて行くと、何故か実際にある建物のように思えてしまう。死者の怨念とも言うべき古我倫典の溺愛した娘永遠(とわ)その情念が建物を作り、そこに住まう者達の上に災禍を齎す。人間の奥深く持つ内在的な情愛と怨念を物語に見た。

綾辻行人著「時計館の殺人 上」、著名な建築家中村清二なる人物が設計したという異風な洋館が鎌倉の森の中にあるという。交霊会という名目で集う数人の者たちがやがて次々と殺害されてゆく。この館の忌まわしい過去に足を踏み入れることになった者たちへの不幸が襲う。


高野和明著「13階段」、現役刑務官南郷と仮釈放の三上純一との死刑囚の樹原の復権に向けて捜査を開始するという現実離れした設定で物語は開始する。人間にとって死、その恐怖や裁判制度での死刑という究極の選択ともいうべき極限状況をどう捉えるか?南郷らの捜査は殺人が発生した千葉県は中港郡に居を構え執拗な捜査を続ける。保護司の強請というあり得ない事実を掴み、捜査を依頼した本人が強請られていたという更に純一が犯した障害致死の被害者の父親もからんでいたというプロットには感服。江戸柄乱歩賞に輝いた本書はまさにミステリー醍醐味を十分堪能させてくれる好著だ。


吉村昭著「漂流」、コメなどを運ぶ運搬船が、強風に晒され漂流の上、激浪の揉まれて船は破壊され着いた島は無人島であった。四国土佐からの漂着した人々の無人島での生活が始まる。月日が経つうちに絶望の淵へと追いやられ生きる希望を喪失し病に倒れる者、悲観し自殺する者と悲惨な状況になってゆく。その中で長平という人物が、絶海の孤島で自然に寄り添い神仏を信じ生きるとうことに専念して行く姿は人間の信じ難い生への執着を思わせる。さらに孤島には大阪船、薩州船と流れ着き絶海の孤島での厳しい生活が始まり漂流民同士の絆、そして最後に流木を利用して船を作り八丈島に寄港し本国に帰着するという物語だ。


黒川博行著「左手首」、本書は、七編からなる短編集だ。黒川ワールドと表現していいだろう凝縮された世界が読者を魅了する。事件の裏にある緻密な取材と奇想天外でもないが面白いプロットそして登場人物たちの何故か憎めない悲哀を伴う人生、これらを軽妙なタッチで描く著者独自の世界観・人生観を表現している。
A・ルースルンド&S・トウンベリ著「熊と踊れ 下」、スウェーデンで、実際に発生した襲撃・銀行強盗事件を題材にしたというフィクションだそうだ。この物語の犯人の生い立ちつまり家族との絆をバックグラウンドを強く意識させる。そんなにも裕福でない家庭、厳格にして暴力的父親イヴァンと母マリーの下で育った3人の兄弟の成長過程での精神状況を背景に軍の武器庫から強盗事件さらに現金輸送車襲撃と続く9件もの銀行強盗の裏に隠れた真実を明かす。