金曜日, 8月 04, 2017

竹本健治著「涙香迷宮」、黒岩涙香を主題に殺人ミステリーを組み立てるという作者の奇抜な発想には驚きのほかない。そもそも黒岩涙香なる作家は日本のミステリー作家の草分け的存在ということくらいしか覚えていない。しかしこの著者による涙香の多彩ぶりは脅威ですらある。こんなミステリーを書く著者に乾杯だ。
川博行著「国境 下」、中国経由で北朝鮮に渡った桑原と二宮は遂に趙を捕まえて吐かせた。詐欺の絡繰りの全貌が解った。二人は帰国して詐欺の首謀者らを次々と襲い金を奪い返すべく。そんな二人は思わぬ展開で決着が付き一件落着となる。まさにミステリーというかエンターテイメント性たっぷりの小説だ。作者に脱帽、面白い。
黒川博行著「国境 上」、ヤクザ組筋から多額の金額を持って逃亡した趙を追って、お馴染み二蝶会桑原と建設コンサルの二宮が趙を追って北朝鮮へ。相変わらずの桑原と二宮の掛け合い漫才的会話は仄々として面白い。一回目の平壌行きから何の収穫も無いまま帰国した二人は桑原の密入国の意思の元に再び中国経由で豆満江を渡り北朝鮮へ。
シェンナ・スウェンドソン「おせっかいなゴッドマザー」、多分三作目だと思うが、魔法製作所シリーズを読んだ。主人公ケイティー・チャンドラはテキサスからニューヨークに出て、ふとしたきっかえでMSI魔法製作所という会社に勤務することになった。この会社を退社したイドリスを中心とした黒魔術軍団との闘う中でケイティーは上司オウエンとのとの恋に落ちる。ニューヨークを舞台に恋愛・ロマンスと魔法界の闘争を通して主人公ケイティーの成長を見ることができるまさにファンタジーであり著者のイマジネーションの凄さを実感する。
畠山健二著「スプラッシュマンション」、葛飾区新小岩にあるマンションその管理組合の理事長を務める高倉、組合結成後4年も理事長を務めている。ある日理事長の息子と住人の間でふろ場での事件が持ち上がる。そして組合の理事長選を控え物語は急展開に。高倉と管理を任された会社の課長代理小林を洗うべく住人3人の飲み仲間が立ち上がり事態は思わぬ展開へと。人生悲喜こもごもを書いたら著者の右にでるものがないくらいだ。後に続く「本所おけら長屋」を彷彿とさせる見事なプロットは絶品だ。
黒川博行著「切断」、警察ミステリー分類に入るのだろうか?連続殺人事件が発生し、被害者は前に殺害された体の一部パーツを差し込まれるという異常殺人事件だ。この小説の根底にある復讐は凄まじいものがある。全身全霊でもって復讐する。異常性愛者による犯行だ。著者の書の中では刑事たちの警戒な大阪弁のやり取りに惹かれる部分が多々あるが、今回は無機質だ。
水野和夫著「閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済」、私は経済学者として著者は我国のトップランナーだと思っている。久々に著者の書を読んだ。過去の歴史を具に検証し今後の未来世界経済並びに日本の生末を提言する。化石燃料を大量に消費し、より遠くへ・より速く・より合理的にと進めてきた20世紀からの現状を変えるべきだと。ゼロ金利政策こそが現状資本主義の末期的な現象で、今後転換してゆくべきだと。プライマリーバランスを早期に達成し、緩やかにゆっくりと変換してゆくべきだと。
月村了衛著「御子神典膳」、江戸時代の剣豪と呼ばれた御子神典膳そして伊藤一刀斎を師と仰ぐ典膳の兄者、小野前鬼これら二人の剣豪の中に城を追われた澪姫と少将小弥太との逃避行さらに彼らを守ろうとする地の豪者との凄まじい武闘が繰り広げられる。中でも黒蓑兄弟右京、左京次の魔剣に包囲され絶対絶命の中で典膳こと前鬼の剣が光る。善と悪と人の人生の生き方まで問う本書はプロットといい登場人物の多彩な顔触れといい絶妙だ。
高田郁著「あきない世傳 金と銀 三」、江戸出店の大志を抱き商売に奔騰する五代目徳兵衛を陰ながら支える幸、江州波村に目星を付け浜糸と呼ばれる生糸を平織にし羽二重の反物として売り出そうと画策する徳兵衛しかし両替商の倒産から波村の人々の反感を買い窮地に立たされた時幸の言動が五十鈴屋を救う。貪欲に知識を求め商いを心から愛してやまない幸の人生航路は今後如何に。
高田郁著「あきない世傳 金と銀 二」、四代目徳兵衛の妻、御寮さんとして五十鈴屋に女衆から奥向きに立場を変えた幸だった。徳兵衛の相も変らぬ廓通いは呉服商仲間の顰蹙を買い五十鈴屋の暖簾を汚し呆け汚す毎日だった。そんな環境の中でも商いに対する知識を貪欲に追い求める幸だった。そして突然悲劇は起こった。廓からの帰り道四代目徳兵衛が川に落ち石垣に当たり呆気なく死を遂げた。四打目頭首を亡くし当然の如く縁談が進んでた次男惣二に白羽の矢が立った。惣二の頭首を継ぐ条件として福に提示したのは幸との縁談であった。
高田郁著「あきない世傳 金と銀」、片田舎の津門村で生を受けた幸、間借りで塾を営む学者を父に持ち大好きな兄そしていもと結と暮らす日々に暗雲が立ち込め、幸の身に不幸の渦が押し寄せて来た。兄また父と早逝し仕方なく大阪天満の呉服商五十鈴屋に奉公に上がることとなった幸。そこで大阪商人の生きざまを学び日々暮らす幸の姿があった。
P・G・ウッドハウス著「ジーヴスと封建精神」、今回は長編ものである。バーティーはジーヴスと共にダリア叔母さんを訪ねる。この家で巻き起こる様々な悲喜こもごもというべきか騒動がおこる。登場する各人物がまた世間を逸脱した道化とも称される愛すべき者たちである。作者が行間に込める何とも言えない含みを味わいながら、ウースターとジーヴスのやり取りを読むのは幸福だ。
門田泰明著「浮世絵宗次 天華の剣 下」、大老酒井の元、闇集団「葵」転じて「白夜」の影が宗次の身辺に出没することとなった。ひょんなことから親しみを覚えたあ剣客式部蔵人なる人物がその後「白夜」の長官となり浮世絵師宗次こと徳川宗徳と決闘をすることになる。無事危難を免れた宗次が最後に奈良の西城家おお婆様を迎えに保土谷宿まで美幸ととみに足を延ばし婆様の歓迎し、その席で婚儀となりめでたしめでたしで浮世絵師宗次物語は完となった。
門田泰明著「浮世絵宗次 天華の剣 上」、徳川幕府将軍家綱の体調不良の元、大老酒井と堀田との後継争いに端を発する江戸市中、幕府お抱えの闇情報集団「白夜」は浮世絵宗次の知る旗本西城山城守貞頼の暗殺を画策しすんでのところで宗次によって事なきを得た。浮世絵師宗次の住む鎌倉河岸八軒長屋のチヨと娘二人との交流さらに江戸庶民の日々の暮らしをふんだんに盛り込み物語は展開する。そして遂に闇集団の手が宗次に迫りくる。
ジェフリー・ディーヴァー著「ゴースト・スナイパー」、著者ディーヴァーは、ほぼ全作読んでいるが、いつ読んでもプロットの巧みさにわくわくさせられる。今回本作は、バハマで殺害された活動家モレノの死を回りあろうことかバハマまで遠征に行くリンカーン・ライムを描き執拗な捜査が開始される。捜査資料及び証拠物件が乏しい中で必死の捜査にもかかわらず、次々と殺人事件が発生する。それもニューヨークで。大どんでん返しはないものの面白く最後まで頁を繰らせる力量は著者なれではのものだ。