水曜日, 12月 29, 2010

伊坂幸太郎著「グラスホッパー」を読んで。

読後の感想から言えば、「実に面白い」と思う。著者の書は、これが初めてである。村上春樹に通ずる底流で蠢く人間の性(さが)が不条理性を伴い流れている。鯨と称する自殺屋という殺し屋が愛読するのはドストエフスキーの「罪と罰」であることもおもしろい。鯨が言う「人は誰でも死にたがる。」と。主人公の鈴木は、殺し屋とやくざの集団に囲まれ翻弄される。殺人ゲームの真っただ中に突き落とされ、右往左往しながら生きながらえる。最終頁まで読ませる力をこのミステリーは持っている。

永井義男著「江戸の下半身事情」を読んで。

数々の江戸の庶民や武士の生活事情を読んできたが、今回は下半身事情だ。性風俗に対する江戸庶民は、あっけらかんとして野放図であったという。葬式の帰り塩で清めその足で女郎買いに出かけるといった話が載っている。
公共の売春宿である吉原を筆頭に岡場所などまた主要街道沿いには必ずあったと言われる。東海道品川宿を始め甲州街道内藤新宿、日光街道千住板橋宿といった場所である。岡場所や飯盛茶屋さらに夜鷹と江戸庶民の性の捌け口は現代にも勝るものがある。時代を超えて、人間の本性は変わらないと思う。

土曜日, 12月 25, 2010

梓崎優著「叫びと祈り」を読んで。

2010年週刊文春ミステリーベストテンの内弟2位とあり、手に取った。勿論著者の本はこれが始めてである。5つの短編の構成なのだが、その一つひとつがつまり構成する短編の舞台がバラエティーに富んでいる。アフリカはサハラ砂漠を舞台の殺人、オランダ、ロシア、ブラジルのジャングルといったステージは、これまでの日本のミステリー作家にない未知の可能性を秘めた作家であると思う。

貴志祐介著「悪の教典」下巻を読んで。

いよいよ蓮見教諭の過去の全貌が明らかにされる。そして文化祭を控え一泊で準備のため校内に宿泊するその日、サイコ教諭蓮見の連続殺人事件の幕が切って落とされる四十数人つまり参加している生徒全員を皆殺しにするといった殺人計画が、次々と実行される。散弾銃を手にした蓮見の容赦ない殺人が、至近距離から頭をぶち抜かれて次々に倒れてゆく生徒の悲惨な姿が、地で埋められてゆく校内の様子が克明に描写される。何故か海外ミステリーを読んでいるような容赦ない無差別な殺人は、日本のこれまで読んだミステリーには無い特異なプロットには、正直驚かされた。

貴志祐介著「悪の教典」上巻を読んで。

読み始めて、学園ドラマの単純なミステリーかと思った。町田のとある私立高校で起こる連続殺人事件その中心にいる蓮見教諭、彼を中心とした他の教師そして生徒見境の無い殺人は、読者を震撼させグイグイと引き込む力を持つ。蓮見教諭の得意な生い立ちが、徐々にベールが剥がされる。なんと父母をも殺すというサイコ教師だ。

火曜日, 12月 21, 2010

島田荘司著「写楽 閉じた国の幻」を読んで。

著者の書はこれが、初めてである。この「写楽」長編である。700ページに近い。しかし読み進めてゆく内に歴史の謎を推理するといった途方もない計画であることが判る。江戸末期東洲斎写楽が描いたとされる歌舞伎役者絵は、歌麿ほか当代の名絵師が描いた作品とどこか異なったつまり違和感がある。デフォルメされた顔と鼻や眼の造作は、既に日本人の筆を圧倒している。忽然と姿を消した写楽の謎を追い詰めてゆくこの書は実に面白い本年度のベスト5に入るものだ。

火曜日, 12月 07, 2010

的場昭弘著「超訳「資本論」」を読んで。

北海道は、札幌すすきのは今雪が降っている。関東から来ると非常に寒い。著者は大学教授でマルクス研究家だ。NHKの再放送で「一週間 de 資本論」という番組に出演されていた。30年も前に資本論を読もうとして、挫折した覚えがある。今また資本論を読もうとしている人が多いとか?。貧富の差が激しくワーキングプアーと言われる階層の出現は、マルクスが資本論を書いた時代と似ているかも知れないという。勿論この本は資本論の入門書である。2500ページにも及ぶ大著を新書版で紹介しているという位置づけだ。マルクスは資本主義社会を科学的に分析とされる天才だ。彼は、商品を分析しその中に含まれる労働価値の二重性に着目し貨幣が生まれる歴史的価値というか必然性を説明する。そして資本の分析へと労働力を売るしかない労働者、労働力の価値を最大限利用すべく生産手段を投入する資本家この対立関係は、古来から現代に至る資本主義社会の歴史の中で普遍の対極だ。世界はグローバリゼーションにより、世界的工場形態とも言える大企業が出現している。安い労働力を求めてアジア、アフリカへと。搾取、収奪の上でのみ生ける資本の論理は今も脈々と生き継がれている。
今資本論を手に取るとすれば、現代に生ける我々の社会が、何処へ行こうとしているのか?マルクスだったら
どう考えるかを読みたいと思う。