月曜日, 10月 29, 2007

ロバート・ゴダード「惜別の賦」を読んで。

ゴダードを始めて読む。最初はミステリーかなと疑問に思いつつ、読み進みにつれ用意周到に練り上げられた人物の伏線が次々と主人公クリス・ネイピアに接近し事件の渦中へと。今日、昨日、明日の3部構成の本書は、昨日の約30年余前に起きた大祖父の殺人事件に絡む一連の追憶に最もページ数を割く。人間の本来持っている姿そのままで生き抜く人生の知恵というか。金を欲張らず、人生を急がず、気の向くままに自分の気に入った趣味を思うがまま行うという、人間の生き方に共感する。

水曜日, 10月 24, 2007

マイクル・クライトン「エアフレーム 機体」を読んで。

航空機事故に纏わるSFというよりは、推理小説である。物語は、香港から米国デンバーへ向けて飛行中のトランスパシフィック航空545便にて、機体が急上昇と急降下を繰り返す所謂「イルカ飛び」現象が発生し、死亡3名、負傷者56名という事故が発生する。航空機メーカであるノートン・エアクラフト社の品質保証部の事故原因究明チームのケイシー・シングルトンが主人公である。事故の渦中での中国とのN22型事故を起こした同型機の商談、事故を回る著名なTV番組クルーとの戦い、さらに社内の副社長マーダーと現社長との派閥抗争と航空機事故を中心に様々な状況の中に主人公を置く設定と航空機なかんずく機体に関する詳細なる科学的情報はクライトンならではである。

火曜日, 10月 16, 2007

ダン・ブラウン「パズル・パレス」を読んで。

読後の感想は、「実に面白い」。スピード感とスリルと、細かく章を分かつ同時進行的筆致は圧巻である。書いたのが1998年だという。当時から米国国家機密情報機関としの国家安全保障局通常「NSA」はネットを介したEメールの全てに検閲を加えていたとは脅威だ。ウィルス、ワームという言葉が既に本書で使用されている。物語は、元NSA職員エンセイ・タンカドがスペインで殺害されるところから始まる。トランスレーターという巨大スーパーコンピュータによる暗号解読さらに政府機関からペンタゴンまで使用するデータベースの破壊という脅威に立ち向かうNSA職員スーザンそしてタンカドが仕込んだ暗号を求めてスペインに送り込まれるスーザンの恋人、Dベッカー、しかしこの著者の背景にはいつも驚かされる用意周到な事実がある。この背景の中で登場人物が様々な場面で交錯しながら展開するその迫力には、拍手を送りたい。(評価:★★★★★)

火曜日, 10月 09, 2007

鍋島美奈子・石川愛「SIS入門」基礎から学ぶGIS を読んで。

GIS(ジオグラフィカル、インフォメーション、システム Geographical Information System)地理情報システムというシステムの入門書である。仮想の(オーバレイ)シート上に地形図やら航空写真やら住宅地図やらを重ねさらに、この図形データと属性としての文字データを重ね様々な空間的分析を行うといったシステムである。ビジネスでは、ある地域の出店計画に利用したり、森林の分布や酸素の供給といった温暖化対策の基礎データを地図図形と合わせた形で視覚的に表示するといった様々な用途に利用されている。中でも、多分であるがイギリスはロンドンの大学生が基礎を作成したといわれる「SIS」は幅広く利用されている。本書は実際の入門書である。驚異的なのは、図形データと文字属性データベース情報との連携で最短経路の検索ができるということである。

岩間健二郎「間違いだらけのゴルフクラブ選び」を読んで。

数年に渡り、このシリーズを読んでいるが、著者の意図的とも思えるあるメーカーに偏った推薦というものが感じられる。各ゴルフクラブメーカにとって、この本での最優秀賞が持つ意味はかなり大きいに違いない。ちなみにダイワについては数年前に著者のシリーズの中で貶されてから出品していないという。
しかし、クラブが大好きな私にとって出れば、必ず買ってしまう。著者の意図的と思える部分も読めるようになった。実際に著者が、例えばHS40mにて試打したときの、飛距離を何Yardと書くべきではないか。と思う。勿論スピン量そのた要因で実際の読者がクラブを購入してもその飛距離には到達しないかもしれないが、かなり参考になることは間違いない。

江戸川乱歩全集第21巻「ふしぎな人」を読んで。

21巻は、怪人二十面相いや四十面相のオンパレードというか、昭和30年初期の少年倶楽部とかの少年少女雑誌の連載物である。しかし良くもエネルギッシュにこれだけの物を書いたという感想である。明智探偵から小林少年探偵団団長、少女団員、ポケット小僧と変化をつけ読者を引き込んでゆく。今読み返してみて、昔の記憶が走馬灯のように蘇り夏の暑い午後縁側で寝そべって読んだ雑誌のインクの匂いを蘇らせてくれる。

日曜日, 10月 07, 2007

トマス・ハリス「ハンニバルライジング」を読んで。

1940年代第二次大戦のリトアニアに住む幼いハンニバルは、ナチドイツ軍の襲撃に遭遇する。妹ミーシャは、殺戮され食用とされる。この数奇な運命から彼の人生は劇的に変わり、青年期の殺人者へと変貌する。殺人の連鎖とそれは過酷な運命に弄ばれた妹ミーシャに捧ぐ、鎮魂の歌ではなかったろうか。犯人たちへの憎悪があだ討ちとなって、次々と殺人を犯してゆくハンニバルの心にもはやキリストの神は居ないと誓う。ナチに占領されたフランス、大戦後スターリンの大粛清と西欧は悲劇の真っ只中に置かれる。ハンニバルの性格は、悲惨な戦争の中で育まれた数奇な運命としか思えない。キリストの神ではなく日本的な無と沈黙と東洋的な神秘性を作者は追う。

土曜日, 10月 06, 2007

ダン・ブラウン「デセプション・ポイント」を読んで。

先月は、仕事が忙しく中々読書する時間が取れなかった。ダン・ブラウンの著作を手に取るのは、3作目だ。デェセプション・ポイントは、米国大統領を取り巻く陰謀を主人公であるレイチェル・セクストンNRO国家偵察局に勤務するセジウィック・セクストン上院議員の娘だが、海洋学者マイケル・トーランドとともに陰謀の秘密を暴いてゆく。NASAの無駄な経費を追求し、民間宇宙関連企業を宇宙開発に参入させようとするセクストン上院議員の反駁を躱わす為、NASAエクスとローム長官とNROがミルン棚氷の300m下の氷の中に隕石を発見するというNASAが開発したPODOSなるシステムを使って、この隕石から1億数千万年前の地球外生命体の化石が含まれているというNASAにとって画期的な発見というお膳立てだ。この物語の背景にある詳細な科学的記述は驚嘆に値する。NASA、海溝地質、化石、兵器とその幅広い知識と記述は物語を引き締める。この隕石がミクロネシア海溝の6000m下の海底の岩石だという事実を突き止め、この隕石だという岩石に付着した地球外生命体だという化石は、またこの海底にかつて生息した海洋生物だと判明する。この事実から自分の父親である上院議員、陰謀に加担する組織のトップからザック・ハーニー大統領の窮地を救う。ダヴィンチコード、天使と悪魔に続いて読んでみたがいずれの著作もかなり良い。ただ、やはり「天使と悪魔」が一番面白かった。