日曜日, 4月 29, 2018

畠山健二著「本所おけら長屋 十」、本所は深川のおけら長屋の住人がからむドタバタ劇を人情味豊に描き読者を安心させる何かを持っている。日本人で良かったと思うそんな気持ちにさせてくれる。江戸の風情と庶民の暮らしさらに連綿と続く日本人の心がこの本にある。

パトリシア・ハイスミス著「キャロル」、1950年代のニューヨークを舞台に若き女性テリーズと美貌のマダムキャロルとの恋愛物語だ。世にいうレズの世界の恋愛といってもそんな異質な感じは全然なくて、直に徹底した二人の就中テリーズの心理を細やかに描き出して先のページを繰らせるサスペンス的な魅力に溢れている。心理描写の徹底した分析はこの本の持つ愛をテーマに人間として成長していく姿を想起させる。
セバスチアン・ジャブリゾ著「シンデレラの罠」、平易な文体ながら、物語で語る人称の不確実性が読者を欺き最後まで殺人犯がどちらともとれる設定になっている。富豪の叔母の遺産を巡る3人の女性の深い心理を描きながら殺人事件の設定を作り上げている。プロットは単純だが、計算しつくされている語り手の人称設定の不確実性が犯人の特定を困難にし読者を迷わせる。
松岡圭祐著「水鏡推理 Ⅴ」、水鏡推理シリーズの第五弾だ。今回瑞希は文科省タスくフォーズより研究公正推進室に移動となった。移動先での様々な出来事に遭遇し持ち前の正義感とともに事件を解明してゆく。核融合炉がからむ熱エネルギーの研究開発と研究者と民間事業者との癒着と予算の要求、さらに不正な株取引にからむ事態に瑞希の追及が開始される。不妊治療から少子化さらに親子・兄弟関係についての著者の幅広い見識に感心する。
松岡圭祐著「水鏡推理 Ⅳ」、著者この水鏡推理シリーズ4冊目を手にした。文科省タスくフォーズに所属する一般事務官水鏡瑞希なる女性の活躍の舞台は今回気象に関するものだ。気象庁天下り先の民間気象会社の不正、これに絡む官僚の予算の不正要求・使用さらに非行少女たちの境遇と親との接点を通して家庭、人生を語る。現代の関心あるテーマを履んだんに盛り込んだプロットは流石だ。
ルネ・ナイト著「夏の沈黙」、英国の女流作家である彼女の作品は初めてだ。つましやかなメゾットに住む家庭ロバートとキャサリン独立した息子は市内のフラットを借りて住んでいる。ある日一冊の本が彼女の元へ送られて来た、本を見た彼女の過去の忌まわしい記憶を鮮明に思い出す。屈辱的な記憶を回り苦悩する母親としてのキャサリンは思い悩む。夫との仲も険悪な状況になり、息子のニコラスとも意思の疎通がうまくいかず八方塞がりとなった。人間の過去は消え去ることはないが、人生の何たるか人間の拙い心をまざまざと見せてくれる作品だ。
カーター・ディクソン著「ユダの窓」、密室で発生した殺人事件、逮捕されたアンズウェルは被告人としてH・M著名な弁護士の元で出廷、プロットというか殺人の密室のトリックはなかなかのものだ。少し冗長性はあるもののカラクリを解き明かす弁護士の手腕は読む者を飽きさせない面白さがある。最終的決着は、まさに人間ドラマ化し落着する。
笹本凌平著「還るべき場所」、登山を通して人間の根源的な愛を描いた長編小説だ。ミステリー部分は多少はあるが、所謂人間小説だ。ヒマラヤK2を目指して公募登山を実施したコンコルディアツアーに応募した初心者を同伴し登攀に賭ける熾烈な状況を想像しながら読める。臨場感は凄いものがある。刻々と変化する天候8000mにも及ぶ高度での酸素の欠乏と疲労と戦いながら登攀を目指す登山者の姿がリアルで極限状況での人間の愛、人生を見事に描いている。
黒川博行著「雨に殺せば」、大阪湾に架かる港大橋上で現金輸送車が襲撃され行員二人が射殺されるという事件が発生した。大阪府警刑事二人、例の黒マメコンビの登場だ。軽快な文章とともに大阪弁のボケと突っ込みが心地よい。尚も続く殺人事件、死体は5人に増え捜査は停滞した。行員の闇金融ばりの不正融資を暴くマメちゃんの必死の捜査で事件は解明へと。
松岡圭祐著「千里眼の死角」、世界統治の野望を描くメフィスト・コンサルティングは、ディフェンダーシステムを駆使し高度な人口知能システムを構築し人類の抹殺を目論む。このリリーズの壮大なプロットはまるでハリウッドの近未来的なエンターテインメントの映画の如く胆い。岬美由紀が対峙することになる悪の枢軸の統治者マリオン・ベロガニア、ここまでくると壮大なエンターテインメントを見る思いだ。
ジェフリー・ディーヴァー著「悪魔の涙」、1通の脅迫状を元に、古巣FBIの文書検査士パーカー・キンケイドはFBIの要請を受け入れ捜査に参加する。未詳はサイコパスだ。多数の人間がいる最中に銃をマシンガンを打ちまくる。残されたメモを詳細に検査する中で、今後の未詳の出没する場所を特定する。そして最後はいつものローラコースター的結末というディーバーの十八番が待っている。リンカーン・ライムシリーズには無い魅力があることは確かだ。
松岡圭祐著「水鏡推理Ⅲ」、栃木県北部の過疎の山村猪狩村へ文科省タスくフォース事務官水鏡瑞希は上司とともに到着。地磁気逆転の層が発見されたとう教授らの真偽の確証を得るため調査開始。そんな折隣村で土が地震により隆起し人顔の塚が表出したとのニュースが入った。この通称人面塚は村の一大テーマパークとなり環境客が押し寄せた。折しも地磁気逆転調査をしていた久保教授のその人面塚を調査してもらい人面塚は紛れもなく自然現象だとのお墨付きをまらった所有者は歓喜した。しかし水鏡は動いた。。
スティーヴン・キング著「ミザリー」、ポール・シェルダンなる著名な作家がある日事故により、看護婦であり熱烈な彼のファンでもある彼女アニーの元で「ミザリー」という彼女を中心に物語を書けと強要され部屋に監禁される密室の物語だ。彼女は過去に数十人の殺害をし、証拠不十分で現在も生きているサイコパスだった。物語はアニーとポールの二人きりの世界で恐怖に慄き苦悩する作家を描く。本当の恐怖スリラーとミステリーが渾然一体となった体感だ。
松岡圭祐著「ヘーメラーの千里眼」、ミステリーだと読んでは少し物足りない。防衛大学及び防衛庁そして航空隊基地と戦闘機パイロットの二人岬美由紀と伊吹直哉との恋愛を織り交ぜる物語だ。自衛隊を見る作者の眼、そこで生きる隊員たちの日常と人生について作者なりの国家感ともいうべき思想を披歴する。訓練中誤って少年を死に至らしめたと絶望の淵に佇む伊吹を身をもって蘇生させる彼女美由紀の愛情と自衛隊内での精神の相克それらが見事に描かれ長編ながら頁を繰らせる力がある。
櫛木里宇著「死刑にいたる病」、大学生の雅也にある日手紙が繰る。シリアルキラーで死刑囚である榛村大和からであった。刑務所に面会に行った彼はキラー榛村か依頼された要件は過去の殺人と一線を画する9件目の殺人は冤罪だと。榛村の過去及び現在まで交流のあった人々との接触を通して榛村の人間性を知ることにより自分もまた過去から現在までの人生を自分自身を知ることになった。設定は面白いが今一ミステリーとしての面白さは薄い。

土曜日, 3月 31, 2018

P・D・ジェイムズ著「策謀と欲望 下」、ホイスッラー連続殺人鬼はあっさりと自害した。連続殺人鬼を追走する物語だと思ったが、作者はバッサリとなんの未練もなく断ち切った。その潔さに感心する。思えば、原子力発電所の小さな田舎町の近隣住民の悲喜こもごも嫉妬や妬みは元より噂、そして暴力と人間が暮らす世界の通常の普通の生活の機微を描きながら中心に据えたテーマは人間の欲望であった。
P・D・ジェイムズ著「策謀と欲望 上」、海沿いの田舎、原子力発電所のある小さな村で次々と起こる連続殺人事件ホイスッラーと呼ばれる犯人の仕業と目され、殺人は惨く惨忍だ。地元警察の刑事が捜査を開始するが、犯人の行方は庸と知れずそんな中発電所の職員がまたもや殺害された。しかし殺害前に目されていたホイスッラーは自害したとされた。事件は迷宮化しつつあった。
米澤穂信著「いまさら翼といわれても」、架空の田舎町、神山町の高校生の青春の会話が主題だ。懐かしい思いが蘇る。徐々に個性を際立たせて大人になる一歩手前の行動と考えを懐かしさと共に思い出し一気に読んでしまう不思議な魅力を持った書だった。
宮部みゆき著「蒲生邸事件」、戦前の2・26事件を題材に、タイムトリップという突飛な発想設定で物語が進んでいく。蒲生憲之という旧陸軍大将・皇道派である家・蒲生邸にタイムトリップした孝史そこでこの蒲生邸の秘密を探り、合わせて事件の渦中に遭遇し現場を具に見ることになる。軍部独裁へと舵を切る日本の現状と必死に生きる庶民の姿は小説らしく、後半部分は既にタイムトリップのことなど忘れてしまう。そんな面白い小説だった。
ジョン・ディクスン・カー著「火刑法廷」、素晴らしい作品だ。プロットもそして謎解きもそこに登場させる人物の配置も見事だ。フィラデルフィアの郊外クリスペンの田舎町の広大な土地を有するデスパレード家そこの当主がヒ素の毒をもられ死亡する。近くに別荘を持つスティーヴンスとデスパレード家の長男マークらとともに霊廟から死体を取り出し毒を盛られた事を実証すべく掘り返した。だが死体は無かった。死体の消失、不倫、魔術めいた家系、犯罪を研究する小説家と伏線にも事欠かない。まさにミステリーの一級品だ。
東野圭吾著「秘密」、杉田平介の平凡な家庭、妻と娘藻奈美との3人でのどこにでむある家庭だ。ある日長野に娘と出掛けた妻直子はバスの事故により娘の藻奈美だけ助かったという事態が発生。そしてミステリーが始まる。娘藻奈美の体に妻直子が宿るという不可思議な状況になった。平介と藻奈美の体をした直子との生活が始まる。娘、妻への愛情と父親としての人間としての嫉妬と苦悩を見事に描いている。ミステリーというより文学的作品だ。
筒井康隆著「ロートレック荘事件」、豪邸とも言われる別荘その建物はロートレック荘というものだった。別荘の所有者木内がロートレック作品の蒐集家で邸内には幾つもの作品が飾られていた。そんな別荘に集まった7人にある日拳銃による殺人事件が発生した。次々と計3人の女性が殺害された。屋敷のカラクリと犯人の鬱屈した精神をプロットとして採用しているが、謎解きは今一だ。
ミシェル・ビュッシ著「彼女のいない飛行機」、イスタンブール空港を飛び立ったエアバスが、フランスとスイス国境の恐山と称される山中に激突した。乗員乗客169名のうち1名の乳児が助かったと地元新聞が報じ話題となった。乗客の中に乳児が二人いて助かったのはどちらの家族の子供かと争いが起きそして一人の探偵が裕福な家族に捜査を依頼されてから18年の歳月が経過した。そして探偵に依頼した契約最後の日に事態は急展開し謎がとける言ったプロットだ。一人の乳児を回り対立する家族そして捜査を依頼された探偵、一方に家族の青年もまた捜査を開始する。様々な状況の中で物語は進む。冗長さは否めないが最後まで繰らせる迫力がある。
東野圭吾著「疾風のロンド」、泰鵬大学医科学研究所から盗まれた炭疽菌カプセル以前研究所に勤務していた男の犯行だと分った。彼は長野県の里沢温泉村スキー場に埋めたといって脅迫してきていた。その後犯行に及んだ男は関越道でトラックに轢かれて死亡、研究員の栗林と秀人はスキー場に向かう。ゲレンデを挟んでの攻防はスリルがあり単純だが著者のプロットは的を得た作りといえる。
黒川博行著「蜘蛛の糸」、7編の短編集だ。著者の短編集は確か初めてだと思う。どれも皆面白い。軽妙な文章のタッチは気軽に読めて何故かホットするものがある。大阪弁でのやり取りも何故か違和感もなくすんなりと受け入れることができる。それぞれの背景の著者の蘊蓄は調査の確かさを認識する。

日曜日, 2月 25, 2018

黒川博行著「暗闇のセレナーデ」、著者の初期の作品だ。美術界取り分け彫刻界の組織である立彫会の副理事長の加川昌の失踪とその妻の自殺未遂から端を発した事件の真相を美大の女子の二人美和と冴子そして西宮北署の刑事が追う。彫刻界、美術界の裏で動く闇を鋭く描きまた当時の美大生の生活もリアルに描写している。著者が美大出という事情も相まって鋭い。事件捜査は一転二転と犯人は用として特定できず巧妙な計画的な犯行をメインにプロットは読者を十分堪能させる小説だ。
ジェフリー・ディーヴァー著「スティール・キス」、著者のリンカーン・ライムシリーズだ。このシリーズは全て読んでいる。今回は生活の身近にある電子機器あるいは電気器具が凶器に変貌するといった恐怖を犯人未詳40号の手に罹り連続殺人事件を追うライムとアメリアの闘いだ。機器に内蔵された電子デバイスICチップの制御コントローラーをハッキングして意のままに操る犯人を追跡する。ライムのタウンハウスにはいつものメンバーであるクーパーのほかに今回初登場のアーチャーが参戦彼女もまた障害者で車いすを使う。後半の著者のどんでん返しは未詳40号の裏に女性が絡むというプロットだが、今回の作品に関しては今一かな。と思う。
太田愛著「天井の葦 下」、失踪した公安捜査官山波を追って曳舟島に到着した鑓水、相馬、修司ら3人は地元の漁師達の中に入り幸運にも果って絶命した正光の同僚喜重の好意で民家を借り住まうことになった。島を調査するうち山波が隠れている確信を掴む。そんな折公安の調査官が島に乗り込み間一髪のところで漁師に助けられ島を脱出し東京へ向かうことができた。立住の児童ポルノDVD携帯により逮捕され一刻の猶予まない4人は計画を実行する。後半の展開は迫力がある。検察と第二次大戦下での言論統制、秘密保護法による無差別の捕縛と警察庁公安との闘いをテーマにしたプロットは著者の力量の大きさを見る思いだ。
太田愛著「天井の葦 上」、3作目を読むことになった。天井の葦という長編だ。正光という老人が渋谷のスクランブル交差点で天空を指さしながら絶命した。元議員からの依頼で鑓水七雄の興信所に依頼があった。その不遇の死の調査依頼だ。鑓水の興信所で働く繁藤修司とともに調査を開始した。一方二人の盟友相馬亮介は交通課に飛ばされ、現在停職中の身だ。その相馬に公安からやり手前島より鑓水らの委任先を掴めと指示を受諾。警察、公安、政界と鑓水らの興信所を巻き込んだ事件の今後の展開は?


マイクル・コナリー著「転落の街 下」、市議の息子のホテルからの転落事件は、早々と自殺と断定され決着し、ハリーは未解決殺人事件の捜査に戻る。執拗な捜索の結果犯人を突き止めた37人もの被害者を出した稀に見る殺人犯を逮捕した。上巻では市議とロス市警が絡む事件を取り上げ下巻では未解決、凍結事件を絡ませるコナリーのプロットは見事に成果を出している。
太田愛著「幻夏」、作者の初作「犯罪者」にも登場する3人、警察官の相馬、元TVプロデューサーの鑓水、そして繁藤修司と。少女誘拐事件を契機に相馬の親友水沢尚の失踪を絡ませ事件は複雑な経緯を辿る。尚の父親が冤罪として9年間の刑務所暮らしから帰還しよりによって自らの息子に石段坂で石礫により殺害される。その後尚の母親香苗が鑓水に尚の捜索を依頼しに来て3人の尚の捜索が開始された。著者の巧みなプロットを冤罪をテーマに警察、検察、裁判官と日本の司法機構の矛盾を指摘する。社会派ミステリーを堪能できる一冊だ。


マイクル・コナリー著「転落の街 上」、ロス市内のホテルの上層階から落下し死亡したハービング弁護士事件を回り、ロス市警のハリー・ボッシュ刑事が捜査を開始する。死亡した彼の父親はロス市議会議員だ。倅が父親のコネクションを使い仕事をして来ていたと分る。ハリウッド地区のタクシー営業許可を回り父子は動いていた。息子は元警官でハリウッド分署同僚警官を抱き込み利権を奪おうとしていた。
太田愛著「犯罪者 下」、三人のメルトフェイス症候群の元凶タイタスフーズは、滝川というプロの殺し屋を雇い彼らを追わせる。周到なる計画を実行すべき三人の前に次々と浮かび上がる真実、大企業と政界との癒着、企業内の対立の構図からマスコミを仲介にして巨悪を暴き全国者連絡会に金を渡そうと脅迫する鬼気せまる後半の展開はまさに読み応え十分なミステリーだ。  
太田愛著「犯罪者 上」、白昼の深大寺駅前で拳銃による射殺事件が起こった。殺害された4人と負傷した繁藤修司、警視庁の相馬啓二、前ディレクターの鑓水彼ら3人の犯罪捜査が開始される。事件に深く関係した産廃業者の真崎、彼は幼児のメルトフェイス症候群なる悲惨な状況を作り出す元凶をタイタスフーズなる食品会社の離乳食にあることを突き止める。3人の前に目出し帽の刺客が送り込まれすんでのところで命拾いした修司を助け出す。複雑なプロットだが軽妙な文体とともにリアルに展開する物語だ。
ルシアン・ネイハイム著「シャドー81」、前代未聞の旅客機のハイジャックを扱った作品だ。時期はベトナム戦争末期だ。中古船を買いエンコ空将とグラントは戦闘爆撃機TX75Eを巧みに盗み出し船に積み込みハイジャクを計画する。旅客機の機長や機内の様子、管制官とのやり取りなどまさにリアルで感動する。プロットの完璧さに加えて描写のリアリティーは迫真の描写だ。
山本一力著「赤絵の桜」、短編5編の本書は、江戸中期のレンタル業損料屋喜八郎とその配下が江戸は深川を舞台に活躍する物語だ。喜八郎に男の粋を乗せ下町人情を前面にさらに恋愛について作者の深い思いを乗せ描いている。日本人の感性に訴える秀作だ。
マイクル・コナリー著「罪責の神々 下」、ロス市警麻薬捜査官マルコ、彼の取り巻き調査官らによるハラー弁護士の運転手アールの殺害、さらにハラー自身が高速道路での追突と危機と隣り合わせで弁護する展開だ。本書下巻は法廷での詳細な記録としたたかな弁護を展開するハラー、チームハラーの見事な調査そして事件は意外な結末へと向かい予想だにしない結果となっていく。どこまでも正義を貫き通し弁護を続けるハラー弁護士、著者の秀作だ。
マイクル・コナリー著「罪責の神々 上」、売春のポン引きがエスコート嬢殺害事件で逮捕されその弁護を引き受けることとなった主人公ハラー弁護士、比較的安易な事案として受けた弁護だったが、事態は予想を超え複雑で無数の糸が絡まる状況となった。ロス市警捜査官、メキシコ麻薬カルテルの収監人モイア、モイアの弁護するスライと事件は一つに纏まりつつあった。
内藤了著「ゴールデン・ブラッド」、ゴールデン・ブラッドと呼称される人口血液をテーマに殺人ミステリーが絡む物語だ。ミステリーあり愛、人類のための博愛と最後には「どんでん返し」ありと巧みなプロットには脱帽だ。人間は何のために、どのようにして生きていくのか?という人生の大きなテーマを主題に組み立てられさらにミステリーを絡ませるという面白さは格別だ。
柚月裕子著「孤狼の血」、広島県警呉原署を回り暴力団との格闘をリアルに描いた警察小説だ。ベテラン刑事大上と新人刑事日岡コンビが繰り広げる壮絶な対暴力団との闘いが大上刑事の人間模様とともに展開するプロットは迫力と著者の綿密な調査とが相まって見事に描かれている。

土曜日, 1月 27, 2018

黒川博行著「果鋭」、大阪府警の元刑事が監察により退職させられた刑事、伊達と堀内のコンビがヒマラヤ総業とかいう会社の競売屋になってパチンコ業界と暴力団相手に死闘するといった物語だ。語りは軽妙にしてユーモアもあり、かつパチンコ業界やら裏社会を徹底して調査した極めの細かな読者が感心する情報が次々と語られる。面白い。

東野圭吾著「ブルータスの心臓」、大手MM重工に勤務する末永、彼は少年時代貧困と不遇の時を過ごし成長し自分で大学を卒業し現在の職についた。彼は職場の女性と付き合い深い関係にあった、だが彼女は大学時代に二度も堕胎するなど末永一人でなく複数と関係していた。彼女の妊娠を契機に関係持った三人が共謀して殺人計画を立案した。しかし結果は思わぬ方向に展開し仲間の室長が殺害された。さらに仲間の一人も青酸カリによって殺害される。警視庁の必死の捜査にも拘わらず進展は皆無で生きずまる。著者のプロットは素晴らしく読者を最後まで一気に頁を繰らせる力がある。しかし最後の犯人のどんでん返しには性急さが見られ残念だ。
黒川博行著「喧嘩」、例によって建設コンサルの二宮と極道二蝶会の桑原とのコンビが繰り広げる脅し、強請り、恐喝と枚挙に暇がないそんな物語を著者は軽妙にしてどこか憎めない二人の絶妙な間合いを存分に楽しませてくれる。今回は、大阪府議、国会議員、暴力団との争いの真っただ中で巧みに生きる二人の知恵が何とも言えぬ味を出している。

アガサ・クリスティー著「青列車の秘密」、青列車とは、イギリスからフランスへ向けて走るブルートレインの事である。ある列車で若い人妻が殺害される。その列車には名探偵ポアロも乗車していた。警察は夫を犯人として検挙する。事件の真相解明はある富豪からポアロに託された。ロンドン、パリ、リヨンを舞台にロマンスを散り嵌め物語は展開し意外とも思える犯人像をポアロが特定する。小さなどんでん返しとも言うべきクリスティーの初期の傑作だ。

ウイリアム・アイリッシュ著「幻の女」、60年以上も前に上梓されたミステリーの古典的名著と称される作品だ。妻を殺害したとして刑執行を間地かに控えた殺人者・主人公ヘンダースンは友人のロンバードに唯一自分のアリバイを証明できる女を探してくれと頼む。依頼を承諾したロンバードは様々な手段でもって探すが手掛かりは何一つなく迷走する。主人公を除いては友人ロンバードと判事の動静を記述し読者すっかり騙されてしまう。最後に待ち受けるのはどんでん返しとなるプロットがこの時代に既に名著として存在していたとは感慨深く驚きだ。
黒川博行著「落英 下」、和歌山県警で専従捜査班に組み入れられた桐尾と上坂刑事は県警の満井と一緒に捜査に当たる。銀行関係二人の射殺事件を執拗に捜査する彼らは徐々に核心へと迫る。建設ゼネコン、マリコンとヤクザの狭間で暗躍する談合屋巨額の金が闇を舞う。遂に裏で糸を引く人物を特定し背後にいるヤクザとの闘いとなる。ヤクザを脅し談合屋から金を毟り取る。綿密なプロットと裏社会の詳細な取材がリアリティーを伴って読者を離さない。
黒川博行著「落英 上」、大阪府警薬物対策課の刑事二人桐尾と上坂コンビによる薬物・麻薬捜査を捜査ガサ入れ中にチャカ拳銃を発見する。しかもその拳銃は和歌山で銀行福頭取が射殺された時に使用されたトカレフM54と断定された。桐尾と上坂は遂に和歌山県警の定年前の刑事と専従班として職務にあたることになった。例によって裏社会のそのスジを描く筆者の描写は本物で府警コンビも相変わらず面白い、多少の冗長性を感ずるが下巻が楽しみだ。


ジャック・ヒギンズ著「鷲は舞い降りた」、第二次世界大戦中にヒットラー配下のドイツ落下傘部隊が、イギリスのチャーチル首相を拉致するといった壮大な計画の下に海辺の霧深い田舎の村に降下し作戦を実行するといった物語である。作戦を実行する側の軍内部の抗争と冷徹な軍内部の階級闘争、さらに地元の村に先んじて乗り込む男が地元民との軋轢、そして地元娘との恋愛と様々な事象が発生し混沌とした状況に陥る。作戦実行を暴露されたドイツ軍はほぼ全滅の憂き目に会う。後半はその緊迫した状況が読者を最終頁まで繰らせる迫力十分だ。


山本一力著「だいこん」、大工安治の元に生を受けたつばきは、幼い頃から酒好きで博打好きな父親の借金だらけの赤貧の家庭で育った。ヤクザの伸介の取り立てさらに食うものにも困窮するどん底の生活を家族5人で耐え忍んだ。そんな中母親みのぶが蕎麦屋に奉公することになり、母親の立ち振る舞いを実際に見たつばきは将来の自分の姿を科さねる。細腕繁盛記でもある本書は江戸庶民の人情ふれあいの中に人間の生とは何か?生きるとは?読者に問いかける。忘れかけた日本人の心をもう一度原点に立ち換えさせてくれるそんな物語である。
黒川博行著「八号古墳に消えて」、考古学会を舞台に暗部を詳細なデータ収集を元に物語のプロットを設定する。殺人事件の連鎖の中で追う大阪府警に黒マメコンビ二人の刑事の活躍が本書でも如何なく発揮され面白い。大阪弁の何とも言えない二人の刑事の会話に思わず苦笑する。常に物語の背景の綿密な調査データの正確さを著者の書から感銘を受け面白さを実感する。

金曜日, 12月 22, 2017

ジョン・ディクスン・カー著「皇帝のかぎ煙草入れ」、1940年代の作品でカーの代表作といわれる古典的ミステリーの名著だと。若くて美しい未亡人イヴを回り道路隔てた真向かいの家の主人モーリスが殺害される。前夫アトウッドが殺害された当夜イヴの家に入り込み殺害を目撃したと彼女に伝える。殺人事件の発生からイヴに嫌疑がかかり警察は遂に彼女を拘留する。イギリス人の心理学者キンロスが登場し様々な視点から犯罪を紐解き解決する。カーのこの小説にみるプロットさらに犯人がだれであるかの伏線を周到に用意し読者に挑戦する。まさに古典的名著だ。
黒川博行著「アニーの冷たい朝」、大阪府警シリーズだ。若い女性の扼殺連続殺人事件を追う大阪府警村木班、周辺警察署と協力してサイコパスを執拗に追う。犯人は殺した女性の遺体にドレスを着せ死姦する。物語は犯人と被害者そして警察捜査警部の各々の視点から語られ最後まで緊張状態を保ちつつ終局を迎える。
山本一力著「銀しゃり」、江戸中期幕府からの棄捐令により江戸市中は不景気の最中にあった。そんな中でも鮨職人として独立し店を持つまでになった新吉は全うな商売に勤しむ人情の解る人だった。江戸庶民の暮らしや人間関係そして人生をどう生きるか?を巧みな描写でもって読ませてくれる著者の力量に感服だ。
ダシール・ハメット著「マルタの鷹」、米国ミステリーのハードボイルド小説の始祖と讃えられ古典的名著と呼称される「マルタの鷹」。サンフランシスコに居を構える主人公の私立探偵スペードが依頼を受ける一件から物語は殺人を伴い展開する。黄金の彫像の鷹を巡る攻防に巻き込まれ絶対絶命のピンチをその才覚で切り抜ける映画化された希代の名著だが、今となっては通常のミステリーと変わらない。
池井戸潤著「最終退行」、著者の前歴である銀行マンとして表裏を知り尽くしたプロットの設定はまさに迫真だ。東京第一銀行羽田支店の副支店長である蓮沼を回り支店長さらに同期の銀行マン、愛人の行員との人間関係と組織としての銀行の旧態依然とした体質を細部まで描いている。会長である久遠の不正資金供与とマネーロンダリングを執拗に追及する蓮沼の正義感は圧巻だ。
山本一力著「深川黄表紙掛取り帖」、短編集だ。作者の書は2作目である。江戸は元禄時代の深川を舞台として起こる事件を題材に作者の透徹した人間観が随所に散見され物語の面白さ多少のミステリー性も加わりさらに読者を魅了する。主人公の蔵秀の取り巻きの人間たちの江戸深川庶民を生き生きと描く作者の力量は人間の狭小さを面白く描いている。
ジェイムズ・エルロイ著「ホワイトジャズ」、確か著者の本は読んだ覚えが有るのだが定かではない。今回のミステリーとかハードボイルドとかの範疇を超えた物語だ。そして著者の強烈な文体というべきか単語・短文の羅列は読者を引きずって止まない。ロスアンジェルスを舞台にしたLAPD(ロスアンジェルス市警)と殺人者、麻薬、密売、ポルノ、殺戮、買収とありとあらゆる悪がまかり通る市での抗争さらにLAPD内部での不正を不条理なまでの描写。主人公の警部補で弁護士のデイヴィッド・クラインの血まみれの抗争が読者を最後のページまで繰らせる。
クリスチナ・ブランド著「ジュゼベルの死」、40~50年代に活躍した女性作家のミステリーだ。英国の小劇場で発生した女性の殺人を契機にそこに居合わせたコックリル警部とスコットランドヤードの警部が追及する殺人事件が主なプロットだ。密室殺人を捜査する中で意外にも容疑者全員が自分が犯人だと名乗るという下りは斬新なプロットだ。結末はどんでん返しに近い意表を突く内容で新鮮だ。
山本一力著「赤絵の桜」、著者の作品は初めてだ。損料屋喜八郎始末控えシリーズ第二弾だという。江戸は深川を舞台に損料屋(レンタル業)を営む喜八郎を主人公に様々な事件を解決するといった江戸情緒と人情溢れる物語だ。本書は数編の短編から成っているが相互に関連しあっている。ミステリータッチの編も編まれていて普通に楽しめる。

黒川博行著「勁草」、オレオレ詐欺集団を追う大阪府警特殊詐欺班の刑事、集団は金主と受け子や役回りの若い衆を使い巧みに老人から金を毟り取る。この集団にヤクザが絡み事態は転々とし、遂に殺人事件が発生、刑事らは逃亡する殺人犯を追い沖縄へ。著者の軽妙なタッチの文体はこの書でも圧巻だ。

水曜日, 11月 08, 2017

アイラ・レヴィン著「死の接吻」、戦後アメリカミステリー界に燦然と登場した20歳代の稀有な新人作家が書いた「死の接吻」は衝撃を持って迎えられた作品でエドガーズ賞に輝いたと。今読んでもなんら古めかしさは無く新鮮だ。主人公の大学生バッドが恋人の妊娠を切っ掛けに殺人を犯してから始まるミステリーはこの小説以来何度もテーマに昇り多数の作家が書きあげている。打算的な青年の殺人、最後は自分自身を死に追いやる運命を作者はその心理状況からも見事に描写している。
鷹羽十九哉著「私が写楽だ」、著者の本は初めてだ。十返舎一九と江戸小娘頭脳明晰にして美人おりきが織りなす、数多怪事件を解決する痛快ミステリーだ。北斎やら多数の江戸の有名人を登場させ物語の面白さを増長させるその描写は著者ならではで、またプロットも各編ごとに素晴らしい。



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黒川博行著「繚乱」、大阪府警を退職した元デカ2人、伊達と堀内が競売屋に職を置きパチンコ店の物件に関わる調査を開始、その過程で殺人恐喝などヤクザが絡む複雑な糸を解して行くといった物語だ。ヤクザ、銀行関係者、元府警OB、新地のホステスとこれでもかという裏を抉り出す痛快なミステリーだ。元デカ伊達と堀内は何故か憎めない人間に描く著者の描写に感嘆。
エラリー・クイーン著「エジプト十字架の謎」、ある村の交差点で首なし磔死体が発見される。その死体はまさに大文字の「T」型をしており謎の殺人事件として登場しクイーンの興味を引くこととなる。捜査に従事したクイーンの元でさらなる連続首なし殺人事件が発生する。少し冗長性は否めないが卓越した推理プロットは古典的名著と呼ばれる著者の代表作だ。
松本清張著「黒川の手帳 下」、予備校のトップとの駆け引きを成功し料亭「梅村」の土地を手に入れたと思い銀座の大きな店を買い取る決意をした元子だったが、突然梅村の土地を手に入れることができなくなった。元子は窮地に立たされた。そして銀座の裏の世界の元に対する逆襲が練られ元子を潰しに罹ったのだ。著者の当時の銀座のバーを巡り蠢く闇のの世界を抉り、一人の女性の野望を描いた社会派然とした作品だった。
黒川博行著「てとろどときしん」、著者の初期の傑作短編集だ。どれも秀作で、読者を飽きさせない著者独特な簡潔にして迫力ある文章は軽快だ。すでにこの当時警察ミステリーの芽生えががあり、刑事のコンビの大阪弁を介しての絶妙ともいえる遣り取りはまさに大阪漫才をルーツに展開したものとみえる。
黒川博行著「疫病神」、「破門」に至る第一作目の作品である。二蝶会のイケイケのヤクザ桑原とフリーの自営業の二宮のコンビ第一作目だ。事は産業廃棄物場建設に伴うゴタゴタに巻き込まれる二人、ゼネコン、ヤクザの組対立するまた組とプレーヤーが続々と顔を揃えシノギを巡る攻防は熾烈だ。そんな物語の中でも桑原と二宮のそこはかとない人間の暖かさを上手く描写する作者の技量には感服。そして軽快で面白い。
松本清張著「黒川の手帳 上」、東京の銀行員の原口元子は、勤務先の銀行から大金をせしめて退社し銀座のママになった。所詮素人の水商売の経営では早晩息詰まる。次のターゲットが産婦人科医院長だ。産婦人科医院に勤務する院長の手のついた婦長から脱税の内容を聞き出し架空口座名義のリストを種に強請る。この手口で5千万円をせしめた。次のターゲットは医科大学専門の予備校のトップだ。
村上春樹著「騎士団長殺し 第2部」、ますます第二部になって物語は、観念イデアの世界に突入して行く。現実と非現実の境界があやふやになり条理と不条理がない交ぜになって混沌した世界の中で生を見出してゆく。自身の存在は不確かな不確実な世界を彷徨い苦悩する。人の人生とはそういったものかもしれない。存在を確かめる何かを求めて生きる人生とはそうなのだろうか?
今野敏著「欠落」、本書は警察小説である。警察小説といえば、黒川博行である。今回釧路空港で買い求めた書だ。誘拐事件が発生し人質交換要員として新人のSITの大石が出向く。さらに管内での殺人事件が発生本部が設置され地道な捜査が開始される。だが永として被害者の情報が引き出せない。そこに沖縄那覇での殺人事件さらに三鷹署内での殺人事件と連鎖情報が加わり、事件の様相が一変する。公安を管轄する警察庁からの警視正の捜査本部への派遣と事件は公安がらみと発展し宇田川巡査部長は通常の殺人事件でないと悟る。幕切れはあっけないが、通常の警察業務を管轄する捜査官らと公安との駆け引きを題材に物語が急展開してゆく。
黒川博行著「迅雷」、奇抜なプロットだ。ヤクザの組長を拉致誘拐するといったゴロツキ3人そして誘拐された組組織との果てしない攻防、騙しあい内容はシリアスだが、まるでユーモア小説を読んでいるようだ。作者の卓越した文体と表現の描写は読むものを最後のページまで繰らせる力を強く感じる。ほんとうに面白い。
高田郁著「あきない世傳金と銀 四」、5代目徳兵衛の突然の引退・隠居宣言により幸の運命は大きく変化することになる。惣二の書付により弟智蔵を六代目徳兵衛にとにより晴れて店主が決定し、徳兵衛こと智蔵は条件として幸を後添えとして希望し幸も承服することから如何せん商売に向いてない智蔵に代わり幸の五十鈴屋経営の手腕が次々と発揮されてゆく。
村上春樹著「騎士団長殺し 第1部」、著者の作品は大分よんでは来ている。今回の騎士団長殺しも例外なく素晴らしい作品に仕上がっている。36歳の画家として肖像画を描いて生活している青年の周りで、感情と理性、条理と不条理の狭間そして己の存在を確かめるような事柄が脈絡なく続く。希望や憧憬からか定かではないが騎士団長というメルヘンチックな妖精とでもいってもいいが現れる。彼を取り巻く様々な理解しながらできなに何か?に取り囲まれてゆくその過程は読み手の精神を高揚させ不連続な世界を彷徨する。
黒川博行著「燻り」、短編集だ。著者独特なプロットとそして軽妙なタッチで畳みかける迫力はまさに黒川作品そのものだ。現実味のある事件とその裏にある人間の欲望や羨望そして人生の悲哀すべての要素を描き出している著者の核心がここにある。
畠山健二著「本所おけら長屋 九、相変わらずおけら長屋の面々、松造、万吉、鉄斎、お染を交えた人情溢れる江戸っ子の出しゃばりが騒動を起こし無事涙を伴って解決するといった筋書きだ。日本人の心の片隅に住まう人情を擽る類まれなプロットは尽きることを知らない。

月曜日, 10月 02, 2017

黒川博行著「絵が殺した」、画家、画商、画廊、美術ジャーナリストといった美術界を巡る殺人事件だ。大阪府警捜査一課、吉永、小沢刑事コンビが犯人を執拗に追う。一見関連がなさそうな殺人事件が発生。捜査を進めるうちに関連が見えてくる。作者のプロットは実に巧みだ。大阪弁の気取らない表現といい、軽快な文章といいすっかり著者のフアンになってしまった。

東野圭吾著「卒業」、6人の卒業を馬路かに控えた大学生の間に起こる殺人事件、青春ミステリーだ。ある日女子学生祥子がアパートで死体となって発見された。自殺他殺両面から警察の捜査が始まったがその動機は掴めなかった。同じ仲間の女子学生波香が茶会の席で服毒による死を迎え緊張しながらも必死に原因を探ろうとする加賀と佐都子。。プロットしては面白みがなく描写も冗長さがあるが、著者ならではの物理学的トリックや青春の群像を描き人間性も描写している。
坂口安吾著「不連続殺人事件」、昭和20年代を舞台にした著者初のミステリーだという。田舎の旧家豪邸に招待された面々の間で起こる連続殺人事件、招待者の中に巨勢博士という探偵好きな人物がその殺人事件を解明するといった。人間の描写やプロットからすると今現在でも十分通用する古典的名著じゃないかと。
貴志祐介著「鍵のかかった部屋」、四篇の短編集だ。榎本径と美人弁護士青砥順子の二人で密室殺人の謎を解明するといったミステリーだ。トリックは意表を突くものが多く榎本の物理学を応用した解明はほーと何故か納得してしまう。気軽に電車の中で読むのに最適な一冊だ。


ジョセフィン・テイ著「時の娘」、病院へ入院中のスコトランドヤードの刑事グラントは退屈紛れに歴史の本でも読もうかと。英国史それも15世紀末のリチャード三世の時代の彼が幼い甥二人の殺害をしたという真実を確かめるべく歴史書を読むことに、グラントの友人から紹介されたアメリカ生まれの青年キャラダインと意気投合しリチャード三世の歴史的殺害事件の真実に迫る。
黒川博行著「二度のお別れ」、大阪市内に銀行強盗事件が発生する。黒さんマメさん黒マメ両刑事のコンビを初め府警捜査が捜査に当たる。犯人からの脅迫状は元より電話で翻弄される刑事と犯人の遣り取りは、軽快な文章と共にスピード感を伴って最終章へと。しかし事件は迷宮入りとなって3年が経過した。ある日黒さんの自宅に犯人から電話が。。。
黒川博行著「封印」、元プロボクサー酒井が世話になっているパチンコ代理業津村が、誘拐された。大阪と京都のヤクザの果し合い、そこに警察官が絡み合う。酒井は一人津村を探してヤクザと渡り合う。軽妙なタッチの著者の文章は一気に週末へ。プロットといい文章といい当に著者の独壇場だ。
道尾秀介著「鬼の跫音」、オカルト的でありミステリアスな趣があり多様なイメージを抱かせる短編集だ。各短編は独立してはいるが、底辺にある人間の懐疑や本性を際立たせる巧妙なトリックとプロットが光る。何気ない日常に潜む人間の本性は底知れぬ恐ろしさ恐怖を感じさせてくれる類をみない小説だ。
黒川博行著「カウント・プラン」、著者の初期の短編集である。現代社会の歪と発生すると思われる事件を捜査側と犯人側と二手に分けて記述してゆく。著者ならではの大阪での警察捜査側の刑事と犯人のやり取りは従前のもので、後の大作にも繋がる兆しが見える。


綾辻行人著「時計館の殺人 下」、殺害は連続的に発生し恐怖に戸惑う時計館の滞在者達。時計館という幻想のフィクションの建築物ではあるが、この小説を読み進めて行くと、何故か実際にある建物のように思えてしまう。死者の怨念とも言うべき古我倫典の溺愛した娘永遠(とわ)その情念が建物を作り、そこに住まう者達の上に災禍を齎す。人間の奥深く持つ内在的な情愛と怨念を物語に見た。

綾辻行人著「時計館の殺人 上」、著名な建築家中村清二なる人物が設計したという異風な洋館が鎌倉の森の中にあるという。交霊会という名目で集う数人の者たちがやがて次々と殺害されてゆく。この館の忌まわしい過去に足を踏み入れることになった者たちへの不幸が襲う。


高野和明著「13階段」、現役刑務官南郷と仮釈放の三上純一との死刑囚の樹原の復権に向けて捜査を開始するという現実離れした設定で物語は開始する。人間にとって死、その恐怖や裁判制度での死刑という究極の選択ともいうべき極限状況をどう捉えるか?南郷らの捜査は殺人が発生した千葉県は中港郡に居を構え執拗な捜査を続ける。保護司の強請というあり得ない事実を掴み、捜査を依頼した本人が強請られていたという更に純一が犯した障害致死の被害者の父親もからんでいたというプロットには感服。江戸柄乱歩賞に輝いた本書はまさにミステリー醍醐味を十分堪能させてくれる好著だ。


吉村昭著「漂流」、コメなどを運ぶ運搬船が、強風に晒され漂流の上、激浪の揉まれて船は破壊され着いた島は無人島であった。四国土佐からの漂着した人々の無人島での生活が始まる。月日が経つうちに絶望の淵へと追いやられ生きる希望を喪失し病に倒れる者、悲観し自殺する者と悲惨な状況になってゆく。その中で長平という人物が、絶海の孤島で自然に寄り添い神仏を信じ生きるとうことに専念して行く姿は人間の信じ難い生への執着を思わせる。さらに孤島には大阪船、薩州船と流れ着き絶海の孤島での厳しい生活が始まり漂流民同士の絆、そして最後に流木を利用して船を作り八丈島に寄港し本国に帰着するという物語だ。


黒川博行著「左手首」、本書は、七編からなる短編集だ。黒川ワールドと表現していいだろう凝縮された世界が読者を魅了する。事件の裏にある緻密な取材と奇想天外でもないが面白いプロットそして登場人物たちの何故か憎めない悲哀を伴う人生、これらを軽妙なタッチで描く著者独自の世界観・人生観を表現している。
A・ルースルンド&S・トウンベリ著「熊と踊れ 下」、スウェーデンで、実際に発生した襲撃・銀行強盗事件を題材にしたというフィクションだそうだ。この物語の犯人の生い立ちつまり家族との絆をバックグラウンドを強く意識させる。そんなにも裕福でない家庭、厳格にして暴力的父親イヴァンと母マリーの下で育った3人の兄弟の成長過程での精神状況を背景に軍の武器庫から強盗事件さらに現金輸送車襲撃と続く9件もの銀行強盗の裏に隠れた真実を明かす。